原田 香奈(はらだ かな)さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1999年 慶応義塾看護短期大学卒業

1999-2004年 慶応義塾大学病院小児外科病棟(5S)勤務

2004-2005年 ニュージーランドへ半年間の語学留学

2005年5月-2007年12月 アメリカ、ノースキャロライナ州のEast Carolina University, Child Life学部へ編入学。チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)になるために必要な授業と保育園・病院実習で学んだ後、オハイオ州Cincinnati Children’s Hospital Medical Center (CCHMC)で、600時間のチャイルド・ライフ・インターンシップを終えて卒業し帰国。Child Life Councilの認定資格試験に合格し、認定チャイルド・ライフ・スペシャリストになる。

2008年7月より、東邦大学医療センター大森病院小児病棟でCLSとして勤務中。

東邦大学医療センター大森病院 チャイルドライフスペシャリスト(CLS)サイト 


 

チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)とは?

 チャイルド・ライフ・プログラムは1950年代に北米で始まり、病院に入院する子どもとご家族のための心理・社会・教育的なプログラムとして、70~80年代にかけて発展してきました。チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLS)は、チャイルド・ライフ・プログラムを通じて、子どもとご家族へ心理社会的支援(Psychosocial Care)を提供する専門職の1つです。CLSは、医療環境下において子どもが抱える様々な不安やストレス、誤解や恐怖などを軽減し、子どもが本来持っている頑張れる力を上手く引き出して、自分の病気や入院治療体験に対して前向きに取り組んで行けるようサポートします。

 また、わが子が急に病気になったり、手術や治療が必要になった場合は、その子どもだけでなく親や兄弟姉妹にとっても、様々な不安を抱きながらの家族の危機状況に直面します。そんな親や患児の兄弟姉妹をも含めた「家族」を支援しながら、子どもに優しい小児医療と、子ども主体の家族中心医療(Family-centered Care)を目指します。

 

チャイルド・ライフ・スペシャリストはどのような活動をするのですか?

 CLSの役割や業務内容は多岐に渡り、一言で説明するのは難しいのですが、以下にあげるような活動が含まれます。しかし、子どもの入院から退院までの継続的な関わりや、子どもとご家族との関係性の中で実践するものであり、1つの項目に限った介入や支援ではありません。また、病院の規模や専門性、CLSの配属科によっては、求められる役割や業務内容は異なっています。アメリカでは、外科、内科、救急外来、PICU、NICUなど各病棟にCLSがそれぞれ配置されたり、CLSがチームでの活動も行っています。

詳細はこちら

①子どもへの説明 / 心の準備とリハーサル(プリパレイション)

②治癒的遊び(セラピューティックプレイ)

③検査・処置中の精神的サポート

④子どもに優しい医療環境作り

⑤遊びを通じた発達支援と医療環境への適応支援

⑥診断や説明(手術・検査・治療など)に伴う心理社会的支援

⑦ご家族にとっての様々な危機的状況への介入とグリーフケア

⑧多職種連携と“架け橋”の役割

⑨その他

 

なぜチャイルド・ライフ・スペシャリストになったのですか?

 看護師を目指したのも、子どもたちのための看護師になりたいと思ってのことでした。看護学生になって勉強と実習の傍ら、アメリカの医療と看護を学ぶという看護研修が夏休みにあり、3年生の時に参加しました。ピッツバーグの様々な病院や福祉施設を見学したのですが、子ども病院を見学する機会がありました。その際に、CLSの方に初めて出会い、CLSの仕事や役割に関する講義を受けました。初めてCLSという職種があることを知り、これこそが私が小児看護の中でやりたいことだと強く感じ、感動を胸に帰国したのを覚えています。しかし、当時はまだCLSは日本では全く知られておらず、日本で学んでCLSを目指すことはできませんでしたので、CLSの理念を自分の看護の中で大切にしながら看護師として働いていこうと思い卒業しました。 

 卒業後は、慶應義塾大学病院の小児外科病棟(5S)で5年間勤務しました。5年間の臨床経験の中で、看護の知識や技術、経験としても本当に多くのことを学び経験することができました。しかし、それと同時に、子どもとご家族への精神面への看護や家族看護に興味を持つようになっていました。また、子どもの成長発達や心理などをもっと勉強したいという思いが募り、看護師3年目頃にはCLSになるための留学を漠然と考え始め、看護師としての5年間の経験を積んで退職、留学を決意しました。

 アメリカでの勉強は、英語での勉強や多くのレポート課題と、毎日の授業についていかなければならない大変さがありましたが、CLSになるための留学であり、目標があるからこそ乗り越えられたのだと思います。CLSとして必要な多くのことを学び、インターンシップを終えて無事に卒業してCLSの認定資格も取得することができました。帰国後は、東邦大学医療センター大森病院でCLSとしての新たなスタートを切りました。「心に寄り添う看護」という看護理念に共感して門を叩いてみたのがきっかけと始まりでした。

 

実際の仕事はどのようなものですか?

 現在は、小児病棟内約56床のうち、Aチーム内(3才半から15歳まで)の約30床の患者さんを対象としています。外科内科の混合病棟のため、血液・腫瘍疾患の化学療法や慢性疾患など内科的治療や疾患の子どもを相手にする傍ら、検査・手術入院、腎臓移植手術を受ける子どもなど、多種多様の疾患や病状の子ども達が入院していますので、様々な場面に直面しながら、CLSとしての介入・支援内容も多岐に渡っています。忙しいながらもCLSとしてはやりがいのある職場です。 

 CLSとして院内1人の活動なので、その日の子ども達の入院や治療、検査・手術状況によって、1日の介入・支援を検討しながら活動しています。短期入院であっても、不安が強い子どもや年齢によって、どの子を優先して支援すべきかなど、その時・その場の状況判断で行動していきます。

 医師や看護師からの相談や依頼によってもその日のスケジュールは変わってきます。

 朝は全員のお部屋を回りますし、医療的な場面での介入や支援だけでなく、日常的なグループ遊びや個別遊びも行います。昼食をみんなで一緒に話をしながら食べて楽しい昼食時間とすることも、子ども達との大切な時間の1つです。また、長期入院中のお子さんやご家族への関わりは日々の積み重ねです。

 

子どもに優しい医療を

 アメリカの小児医療では“Family-Centered Care(家族中心医療)”が重要な理念として掲げられています。全ての必要な情報や支援を提供し、子どもたちと家族のために医療職の一人ひとりがいるという考え方と構図です。日本の小児医療でも、そのような子どもと家族が主体の子どもに優しい医療を提供することをもっと広めていきたいと思います。そして、CLSのいる病院だけでなく、日本の小児医療全体が子どもに優しい医療を提供することができたらと願っています。

 

医療者に知っておいて欲しいこと

 小児医療において、子どもへどのように病気や治療について説明したら良いのだろう、知ると余計に不安になるのではないかと思う医療者はまだまだ多いと思います。親に説明をすれば良いのではなく、子どもだからこそきちんと年齢や発達段階を理解して、これから経験することを分かりやすく説明してあげて欲しいと思います。子どもは色々なことに興味を持ったり、聞きたがったり、知りたがったりするものです。それが病院に来ただけでも、医療者に会っただけでも、緊張して身構えてしまうので、心をほぐしてあげられるような、その子がその子らしくいられるような配慮や声かけが必要なのです。初めての人に会うことや、医療環境に入る緊張感を軽減してあげられれば、子どもたちは本来好奇心がいっぱいで、頑張れる力がしっかりと備わっています。また、子どもは親の傍にいれば全て話を聞いており、医療用語の使用から、余計に何の話をしているのだろうと不安になります。治療に対して前向きに頑張り乗り越えられた体験が、その子どもの自立や達成感につながり、入院治療体験も貴重な経験となるのです。将来、その子どもが困難な場面に直面することがあっても、この経験があったからこそ上手く乗り越えられるというような、今後の人生の糧になるような経験にしてあげられるのは、医療現場にいる我々医療者であるのだと思います。

 

大事にしていることは何ですか?

 子どもと出会うその瞬間からの関係作りを大切にしています。子どもの心に寄り添いながら、いかにその子の気持ちや思いに気づいてあげることができるか、心配りをしてあげられるかが、日々子どもと向き合い接する上で大事になると思っています。そして、いかに自分が子どもにかえって一緒に遊んだり、子どもと本気で勝負をしたりできるか!(笑)もちろん、その子どもの発達段階や母子関係、コーピング方法、今までの医療体験、病気の理解や捉え方、同室の子ども同士の関係性など、様々なことを全体的に捉え、把握していくことも、子どもと向き合いながら関係を作る上で大切な側面です。子どもとは遊びを通して友達の関係にもなり、時にはお姉さんのような、お母さんのような役割を担ったり、または、幼稚園や小学校の先生のような役割も担います。子どもと楽しく遊んだり、時には静かに向き合いながら子どもの心に寄り添う時間を持ったり、正しいことは正しい・ダメなことはダメときちんと伝える、そのような深い信頼関係を作れることが、CLSとして子どもとご家族を支援していく上で大切なことだと考えています。

 

これからの取り組みについて

 CLSの活動を1つ1つ実践で示しながら、CLSの専門性に対する理解が日本でも広がって行けば良いと思っています。CLSの支援がこの子どもと家族にはぜひ必要だと思ってもらえることや、こんな場合はCLSに相談したり、一緒に連携しながらより良いケアの提供を行えると多くの医療者に思ってもらえるような活動を院内外で広めて行けたらと思います。また、処置における子どもとの関わり方やプリパレイションの重要性など、医療スタッフの間にももっと伝え広めていく必要性があると感じています。病棟内だけでなく院内全体の医療スタッフに向けた研修会を行ったり、検査室や手術室など他部門でも、子どもへの関わり方や診療を行う上で大切にして欲しいことなどを伝えていきたいと思います。

 近年、日本でもCLSは年々少しずつ増えては来ていますが、全国でも22名とまだまだ足りません。バックグラウンドとする学問は、看護学、心理学、教育学、社会学などと様々ですが、留学して学んで資格取得という道しか現在はありません。今後は、学会発表や実践報告、勉強会などを行いながら、CLS1人1人が実践を積みながら活動を続け、小児医療の現場や社会にも働きかけられるようになれればと思っています。そして、CLSが小児医療にとって必須の職業になれるよう活動していきたいと思います。